第1回:いい音って、どんな音?
JUGEMテーマ:オーディオ
今回から始まった「オーディオなぜなに事典」の回答者のゴン川野です。オーディオに興味を持ったのは小学生の頃、アナログレコードとカセットテープの時代でした。オーディオライターになってからCDプレーヤーの誕生に立ち会い、DAT、MD、SACD、そしてハイレゾと、オーディオの進化と共に歩んできました。思い起こせば、新宿西口地下広場でのフォーク......(以下40行略)
(自己紹介はこちら)
ろみーです。私、この会社に入るまで(自己紹介はこちら)、オーディオのこととか、まったく考えたことがなくて、最近になってようやくコンポを揃えたんです。量販店に行っても、売り場のどこへ行けばいいかわからなくて、オーディオ、ステレオ、スピーカー、コンポという単語の違いすらわかりません。
それは大変でしたね。オーディオ(audio)とは「耳に聴こえる音」という意味ですが、それが転じて音楽再生するために関連する機器のことを指すようになりました。オーディオ機器、オーディオシステムを省略してオーディオと呼んでいます。ステレオ(stereo)も同じ意味で使われることが多いですね。
昭和時代の話はよくわからないんですけど……モノラルに対するステレオだったのですね。ブランド品のロゴみたいなものですね。よくわからないデザインでも有名ブランドのロゴが付いていれば、みんなも納得みたいな!
……ですね。オーディオシステムは、主にプレーヤー、アンプ、スピーカーで構成されています。スピーカー部分だけが独立したものをモジュラーステレオと呼び、メーカーがセット売りをしていました。
はい。現在はレシーバーと呼ぶことが多いですね。これに対して、独立した機器を「コンポーネント」と呼びました。つまり、アンプだけ、スピーカーだけならコンポになります。異なるメーカーのコンポを組み合わせて自分だけのシステムを作ることを「バラコンポ」、略してバラコンと呼びました。え、「フランケンシュタイン対地底怪獣」で見たことあるって、それはバラゴンですね。このギャグ、1960年代に怪獣映画を見てないとわかりませんね。
えーと、オーディオとステレオの意味はわかりましたが、私が量販店の店員さんの勧められるままに買ったコンポ、いい音かどうかわかりません! いい音って、どんな音なんでしょうか?
いきなり本質を突いた質問ですね。それが簡単にわかれば、オーディオ雑誌は売れなくなってしまいますよ。人によっていい音の基準は違っています、十人十色ですね。スーパーコンピュータのように計算が速いマシンが1番と決められれば、測定すればどのマシンが世界1か判定できます。実際に計算させても、そのマシンが1番早いでしょう。しかし、オーディオのいい音は測定ではわかりません。
カタログにスペックは載っていますが、それを見ただけでどんな音が出るかは、オーディオ評論家にもわかりません。長岡鉄男先生も「オーディオいろはがるた」で「聴いて極楽、見て地獄」という札を作りましたが、見た目はバラックのようでもいい音がすることもあり、立派なデザインだが音がイマイチということもあります。つまり、最終的には聴いてみなければわかりません。
聴いてみてわからないときは、どうすればいいんでしょうか?
え、だったら1番安いのでいいんじゃないの......?
いじわる〜。もっと通みたいに知りたいんですよ、深〜く!
そうですか、女性には珍しいタイプですね。では、自分の好みの音を探すことから始めてください。まず、自分の1番好きな曲を選んで、アルバムでもいいですね。その音が心地よく聴こえるコンポを探しましょう。
なるほど、では、私の今1番じっくり聴きたいCDはこれです。自宅で聴いていると、普通にいい音のような気もしますが、感動した! という体験ではなく、ちょっと物足りない気はしますね。
もっと突き詰めていくのです。その曲のどの部分を聴きたいのか。どれぐらいの音量で聴きたいのか。どれぐらい低音が出ればいいのか、音はなめらかなほうがいいのか、尖っているほうがいいのか、コンポのグレードを上げていけば、聴こえなかった音が聴こえてくることもあります。こうして少しずつどんな音が好みなのかを探っていけば、あなたにとってのいい音がわかってくるはずです。誰もが心の中に自分だけのいい音をもっているのです!
ちょっと〜いい話にまとめて、誤魔化そうとしてませんか?
ふふふ。それではメーカーが考えるいい音とはどんな音なのか考えてみましょう。1950年にアメリカでLPレコードが発売され、1955年には日本でも「電波とオーディオ」という専門誌が創刊されました。なぜ、電波かと言えば、当時のオーディオはラジオ受信機で音楽を聴くことだったからです。アメリカではハイファイという言葉が流行しました。ハイ・フィデリティの略で意味は高忠実度、日本では原音再生と言われました。
原音って、何か原酒みたいな響きですね。
未だに、オーディオメーカーのカタログには原音再生の文字が躍っているので、かなり長生きの用語と言えます。演奏したときの音をそのまま再現する、という意味ですね。ギターとボーカルだけの曲ならできそうですが、オーケストラとなると難しそうです。またアニソンなどで伴奏をすべてシンセと打ち込みで作っている場合、何が原音なのかという問題もあります。
ライヴ録音なら、原音に忠実だと臨場感ありそうでうれしい気がします。
原音再生がもてはやされるのは、周波数特性とか、歪み率とか、最大出力とかの数字に落とし込みやすいからかもしれません。ハイレゾもCDでは20kHzまでしか再現できなかったので楽器の倍音成分がカットされていましたが、今度は100kHzまで録音再生できるので、原音に忠実ですって説明できます。それが聴こえるかどうかは別として。
周波数? 歪み率? ヘルツ? リケジョじゃないのでわかりませーん! やっぱり、いい音って数字で決まるのですか?
カタログスペックを音に結び付けるかどうかはメーカーの考え方次第で、海外ハイエンドメーカーでは、あえてほとんどのスペックを未公開にしているところもあります。数値ではなく音を聴いて判断して欲しいということでしょう。日本でも内部構成は未公開というイヤホンを販売しているメーカーがあります。
それでは具体的に、原音再生を目指すコンポとは?
それはメーカーによって考え方が違いますが、スピーカーの場合、一般的には余分な響きを乗せないということです。昔のスピーカーは箱鳴りを積極的に生かす「楽器的スピーカー」と、箱を響かせない「モニター的スピーカー」に分かれていました。スピーカーは他のコンポと違って、木を使うのが大きな特徴です。木はスピーカーの音で共振するので、これをうまく使うと、響きの豊かなスピーカーが完成します。例えばタンノイ「オートグラフ」とか。
楽器的なスピーカーって、イメージがいいですね。響きがきれいそうです。
ユニットからストレートに音が出て
箱が鳴らないモニター的スピーカー(左)と、
箱全体が鳴る楽器的スピーカー(右)のイメージ
しかし、オーディオソースの情報量が増えるに従って、楽器やホールの響きまで録音されているから、それを忠実に再現したほうがいいという考え方が生まれます。スピーカーの板は、強度を出すために固くて厚くなり、MDF(Medium Density Fiberboard/中密度繊維板)と呼ばれる木片を接着剤で固めたものが使われます。さらに、樹脂系やFRP(Fiber-Reinforced Plastics/繊維強化プラスチック)、アルミのフレームなど、重くて共振しにくい素材も注目されます。
スピーカーの振動板の素材も、紙から、アラミド繊維、カーボンファイバー、チタン、ボロン、ベリリウム、ダイヤモンドなどが使われました。箱鳴りを抑えてスピーカー・ユニットの音だけを純粋に再生しよう。それが、ハイレゾのもつ音場感の再現につながると考えられています。
スピーカー・ユニットの音、いかにも重要そうですね。音場感……!? もう頭の中がパニックです〜。また次回教えてください!
- 2017.07.05 Wednesday
- オーディオ「なぜなに事典」